改正相続法(2019年7月1日施行)

配偶者居住権などの規定を除いて、改正相続法が2019年7月1日からスタートいたします。その中からいくつか取り上げたいと思います。

遺産分割等について

婚姻期間が20年以上の夫婦が相手方にした居住用不動産の遺贈又は贈与については、特別受益の持戻し免除の意思表示を推定する規定が定められました(新法第903条第4項)。

この規定により、相続分を算定する際に、生前贈与又は遺贈を受けた居住用不動産については相続財産に含めない旨の意思表示が推定されるため、配偶者は旧法のときより、多くの相続分を取得することができるようになりました。

預貯金の一定の金額を遺産分割前に払戻せるようになりました(新法第909条の2)。

この規定により、各相続人は、被相続人の各金融機関の預貯金について、遺産分割協議が終わっていなくても「相続開始時の預貯金額の3分の1に、当該共同相続人の法定相続分を乗じた額」を限度として払戻しをすることができるようになりました。

 

遺言制度について

遺言執行者に就任した場合は、就任した事実、遺言の内容を相続人に通知する義務が定められました(新法第1007条第2項)。

この規定は新法施行後(2019年7月1日以降)に遺言執行者に就任した者に適用されます。

特定財産承継遺言の遺言執行者が、相続人のために相続登記の申請ができるようになりました(新法第1014条第2項)。

旧法では、権利を承継した相続人が登記の申請をできる場合には、遺言執行者は登記の申請をする権利も義務もないとされていましたが、新法では遺言執行者の権限とされました。
この規定は新法施行後(2019年7月1日以降)に遺言執行者に就任した者に適用されます。

遺言執行者の復任権が広がりました(新法第1016条)。

旧法では、遺言執行者は、遺言者が遺言に別段の意思を表示した場合を除き、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができませんでしたが、新法では、遺言者が遺言に別段の意思を表示した場合を除き、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができるようになりました。
この規定は新法施行の遺言により指定された遺言執行者に適用され、新法施行の遺言により遺言執行者に就任した者には従前の規定が適用されます。

 

遺留分制度について

「遺留分侵害額請求権」として金銭債権になりました(新法第1046条第1項)。

旧法では、減殺請求権を行使すると遺留分に必要な限度で贈与又は遺贈を失効させ、その権利を請求権者が取得することができましたが、新法では遺留分に相当する金銭を請求することはできますが、贈与又は遺贈は失効させることはできなくなりました。

遺留分を算定するための財産の価格の計算にあたり、相続人にされた生前贈与については、原則として相続開始前10年間にされたものに限り算入されるものと変更されました(新法第1044条第3項)。

旧法では、判例上、相続人にされた生前贈与については、時期の制限がなく、全てのものが遺留分を算定するための財産の価格に算入されていましたが、新法により変更になりました。

 

相続の効力等について

特定財産承継遺言などで相続人が法定相続分を超える部分を相続した場合には、法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を備えなければ、権利の取得を第三者に対抗できなくなりました(新法第899条の2第1項)。

旧法では、特定財産承継遺言や相続分の指定などで相続を原因として権利を取得した相続人は、登記等の対抗要件を備えなくても、権利の取得を第三者に対抗できるとされていましたが、これでは相続債権者等を不当に害するおそれがあるため、新法で改められました。

遺言執行者がある場合に相続人が遺言執行を妨げる行為を行った場合には、その行為は無効であるが、善意の第三者には対抗できないとされました(新法第1013条第2項)。

旧法では、遺言執行者がある場合に相続人が遺言執行を妨げる行為を行った場合には、絶対的無効であるとされていましたが、相続債権者等の取引の安全を図るため、新法で改められました。

 

特別の寄与制度について

被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続放棄者、相続権排除者は除く)は特別寄与料を請求することができるようになりました(新法第1050条第1項)。

特別寄与者の権利行使期間は「特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したとき」までと定められています(新法第1050条第2項)。

この規定は新法施行後に相続開始した場合に適用され、新法施行前に相続が開始している場合には特別寄与料の請求はできません。

【特別寄与者となり得る者】

  • 養子縁組をしていない再婚相手の連れ子

【特別寄与者となり得ない者】

  • 事実婚の相手方
  • 同性カップルのパートナー
  • 被相続人に金銭的な援助をして、被相続人の財産の維持又は増加に寄与した者